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脳内にて白の美学を再構築してみる×お知らせ

庄村久喜が手掛けるぐい吞:酒器展に出品予定です。
                           ぐい吞 -纏うカタチ-

 

僕こと私、現在進行形の作陶を少しだけ真面目に語ってみようと思う・・・

 

・・・

 

白磁作家としての探求の中で私はようやく「これが私の白だ」と言える表現にたどり着きました。

 

この白は私の作品世界を広げるための大切な武器です。

 

ただし、

 

白磁の美は「白」という色そのものに宿るものではありません。

 

真に問われるのは、その白を用いていかに豊かな表現を作り出せるか。

 

その挑戦が創作の核心だと考えています。


私の作品はロクロの回転から生まれる。その中で白磁の美を引き出すための主なアプローチは3つある。

 

1.     形を削る

ロクロで成形した形をさらに薄く削り込むことでシャープで緊張感のあるフォルムが生まれる。

 

これが白磁に品格を与える。

 

2.     彫りを加える

例えば、表面に植物や幾何学模様を彫り込むと、光と影の繊細な陰影が現れる。

 

この陰影こそが、白磁の魅力を際立たせる。

 

3.     面取りや鎬彫りで変化を生む

 

表面に面取りを施したり、全体に鎬(しのぎ)彫りを加えることで、

 

単なる形が立体的な美へと昇華する。

 

こうして削り、彫り、形に変化を与えることで、真の白磁の美が生まれるのだ。

 

要するに白磁の美とは、

 

余計なものを削ぎ落とし本質を浮かび上がらせる「引き算の美」だと考える。

 

削ることで形が研ぎ澄まされ、彫ることで白の奥深さが引き出される。

 

白磁作家は、この引き算の美に向き合うことこそが最も重要なテーマだと言えるだろう。

 

「引き算の美」を深く追求した陶芸家として、特に3人の作家が思い浮かびます。

 

和田的氏、新里明士氏、そして黒田泰蔵氏です。

 

彼らの作品は、それぞれ独自の「引き算」を通じて際立つ美を生み出している。

 

和田氏は、ロクロで分厚く成形した器の外側を、彫刻のように大胆に削り出す。

 

その削る量は圧倒的で、結果として現れる形には、緊張感と独特の造形美が宿っている。

 

新里氏は、薄く削り出した器にさらに無数の丸穴をデザイン的にあけ、釉薬を埋め込んで焼成する。

 

このプロセスは「マイナスの引き算」とも言え、独自の表現美を確立している。

 

黒田氏は、極限まで薄くロクロを引き、削らず、釉薬を施さずに焼成する。

 

その「ゼロの引き算」は、素材そのものの美しさを極限まで引き出している。

 

この3人のアプローチは、それぞれの「引き算」が生む美の可能性を最大限に表現していると思う。

 

しかしながら、

 

この3人の作家が際立った表現をされているため、

 

私を含む他の白磁作家はどうしても同じような「引き算の美」に収束してしまっています。

 

幸い、私の白磁は唯一無二の光沢感がある白であり、それなりの評価があるかと思います。

 

しかしながら、引き算の美の表現において他の作家と差別化することはできず、

 

大多数の枠から抜け出せないのが現実であり、最大の悩みでもありました。

 

 

ある日、答えが見つからず時間だけが過ぎていく中、

 

親友でありライバルでもある青磁の陶芸家と酒を酌み交わしていました。

 

話題は自然と陶芸談義に熱を帯び、彼が一言、

 

「白磁を作る作家はみんな同じような彫りばかりで、つまらない!」と放った。

 

酔いも手伝い、その場では深く考えなかったが、

 

後に冷静になると、第三者から見ればそう思われても仕方ないのかもしれないと思った。

 

それでも心の中では、

 

「それが白磁の美しさ、引き算の美なのだ」と自分を納得させていた。

 

だが、その瞬間脳内にフッとアイデアが降りてきました。

 

「引き算の美があるなら、足し算の美もあり得るのでは?」

 

逆の視点から発想するのは、私が思考を深めるためによく使う方法だ。

 

その問いは、私の中で新たな創作の扉を開ける予感をもたらしました。

 

多くの人は「引き算の美の逆を考えるのは簡単では?」と思うかもしれません。

 

しかし、その前提には、そもそも白磁の美を「引き算の美」として認識し、

 

それを深く掘り下げて考え理解する視点が必要です。

 

これに気づかなければ、「足し算の美」という概念には到底たどり着けないでしょう。

 

白磁を手がける陶芸家にとって彫ることや削ることは、

 

もはや息をするのと同じくらい自然な行為です。

 

それほど当たり前で、意識の外にある技法なのです。

 

しかし、この「当たり前」を疑うことで新しい可能性を見つけることができるのではないかと思います。

 

「足し算の美」という考えを意識した瞬間、

 

私の脳内の記憶の引き出しがいくつも開きました。

 

たとえば、以前から好きだった鈴木徹氏の緑釉の作品。その表面に感じる独特な面白さ。

 

そして、陶芸とは異なりますが、左官職人が漆喰壁を仕上げる際の動きや表情の魅力。

 

さらには、ケーキ作りでクリームをデコレーションするときの、

 

クリームが生み出す独自の動きと面白さ。

 

これらの記憶が呼び覚まされ、点が線で結ばれるように、

 

「足し算の美」という表現に対する私自身の新たなイメージが生まれました。

 

それは、ただ付け加えるだけではない、手を加えるたびに形や表情が豊かに広がっていく、

 

美の新たな可能性でした。

 

しかし、簡単にはいきません。

 

磁器を使った足し算には、まだ克服すべき課題があります。

 

物性の特性から、形が崩れやすく、割れやすいという問題に直面します。

 

また、足し算するということは、そのたびに重くなるというリスクもあります。

 

そのため、数をこなして経験を積み重ねることが唯一の解決策です。

 

まずは酒器を作り、次に抹茶碗と、少しずつ作品のサイズを大きくしながら、

 

その限界を試しているところです。

 

困難に直面しながらも、未知の可能性に胸を躍らせる毎日です。

 

・・・

 

そして、お知らせです。

 

 

-迎春- 酒器展

会期:20241220日㈮~26日㈭

会場:アトリエヒロ →詳しくはHP

 

 

福岡三越 2025酒器展

会期:202518日㈬~20日㈪

会場:岩田屋三越美術画廊

 

 

 

今回、大阪、福岡と二つのイベントに参加しております。

 

先ほどまでがっつりと真面目に()語り尽くしました足し算の美による酒器を出品します。

 

しかしながら、完成までに時間がかかることもあり、

 

各イベント5点ずつのご依頼でありましたが、

 

各会場に3点ずつしかご用意できておりません。

 

もしご興味がございましたら、ぜひ会場にてお手に取ってご覧いただければ幸いです。

庄村久喜による白磁の酒器:シルクのような光沢感と新しい造形が魅力
                            ぐい吞 -纏うカタチー