· 

日本伝統工芸展の審査とはいかに!?

白妙彩磁鉢:晩香窯の庄村久喜が制作したシルクの光沢をもった白磁作品。彫りと釉薬の濃淡での白グラデーショーンが斬新な白磁表現
                                     10年前に日本伝統工芸展にて受賞した作品(姉妹品)

日本工芸会に所属する身として、年に一度の大イベントである日本伝統工芸展。

 

毎年9月中旬より東京の三越日本橋本店をかわきりに、

 

約1年間をかけて全国主要都市をまわる大イベントです。

 

今年も無事に制作が終わり、搬入日に間に合うよう、すでに発送済。

 

陶芸部門は他部門と比べて、出展応募数も多いので、早めの搬入となっている。

 

また、日本工芸会の各支部でも支部展が開催しているのだが、

 

西部支部(九州地区)の支部展(西部伝統工芸展)の搬入が毎年4月のはじめなので、

 

支部展の搬入が終われば、すぐに本展に向けて作陶しなければいけない・・

 

毎年この時期、西部支部所属の陶芸家はバタバタしているわけです。。

 

そこまでして、何故ゆえ、出展応募するのか?  

 

駆け出しだった頃の私は、純粋に挑戦だった。

 

己が生み出す作品が全国で通用するのか??

 

それだけだった。

 

では今は?

 

もちろん、挑戦という想いは今も変わらない。

 

他にもいろんな理由があるが、

 

その一つに

 

公募展を通して、制作心を整理できるからという理由もある・・

 

 

そんな想いを込めて、毎年必ず出展しているわけなのだが、

 

そんな日本伝統工芸展、どんな審査が行われているのか?

 

出展している工芸家の方たちならば、知っている人も多いと思うが、

 

そうでない一般の方々、興味はあるが出展したことがない方々、

 

また、「どうぜデキレースなんでしょ?」と疑いの目でみている方々、

 

「他人に評価されるようなイベントには興味ない」と完全に無視の方々、

 

そんな方たちのために、私が知る限りのことをお話しできたらと思う。

 

・・・

 

そもそも、日本伝統工芸展は7部門から成り立っている展覧会で、

 

陶芸、染織、漆芸、金工、木竹工、人形、諸工芸(硝子、七宝、截金、硯など) と、部門が分かれている。

 

その中でも、圧倒的に陶芸人口が多く、

 

去年、陶芸だけでも、約600点ほど応募がありました。

 

全体の応募点数は、約1300点ほど。

 

部門全体の入選率は約40%ですが、陶芸部門のみで計算すると入選率は約30%でした(去年のデータ)

 

当然、応募点数の変動によって率も変わってくるが、

 

陶芸で入選しようと思ったら、2~3割の枠に入らないといけない。

 

とても狭き門なのです。

 

その審査はどのように遂行されるのか?

 

まず初めに行われるのが第一次鑑査。

 

各部門ごとに、7名の鑑査員がいます。

 

鑑査員にも選定条件があり、人間国宝、過去に本展で受賞された方、

 

美術館などの学識者で構成されており、毎年ごとに鑑査員も入れ替わります。

 

ここからは、うる覚えなので、現状の鑑査方法が間違っていたらすみません。。

 

鑑査方法もより良いものとなるように変化しているからです。。

 

以前は、最初のふるい分けとして、〇×方式だったような気がします。

 

しかしながら、この方法だと、0点か100点かとあまりにも極端すぎるということで、

 

現在は、一人持ち点が7点の点数方式に変わっていると思います。

 

例えば、 

 

一つの作品に対して、0~7点をつけるこの方式だと、

 

細かな鑑査ができるからです。7人の鑑査員がすべて満点ならば、49点満点。

 

点数のラインがうる覚えですが、35~49点の作品は、ほぼ入選です。

 

ということは、35点以下だった作品は落選なのか?というと、

 

そうではなく、35点以下だった作品をさらにもう一度再監査するらしいです。

 

しかしながら、14点以下だった作品は、再監査なく落選だった気がします。。(おそらく)

 

そうやって、何度も、繰り返し鑑査を行い、約200点の入選作品を選びます。

 

 

それと同時に(たぶん・・)、受賞候補作品も選ばれます。

 

鑑査員7名が、入選ライン突破した作品の中から、より優れている作品を数点選ぶそうです。

 

当然、鑑査員によっては選ぶ作品がかぶる場合もありますが、

 

最初に選ばれる数として、一番多くて、7名×数点で20点ほどでしょうか。

 

陶芸において、最終的に賞候補作品となる数は、約5点ほどです。

 

それまで、何度も繰り返し選ぶそうです。これも点数方式だった気がします。

 

 

ちなみに、最初の鑑査で49点満点を獲得したからと言って、

 

必ずしも賞候補として選ばれるわけではないそうです。

 

一次鑑査はじっくりと行われます。何度も何度も。

 

満点ではない作品だっとしても

 

じわじわとその良さが理解できることもあり、

 

そんな作品が賞候補となりえることもゼロではないそうです。

 

これは裏話ですが、

 

鑑査中に鑑査員同士が話し合わないように、鑑査員を見張る方たちも鑑査会場にいるらしいです・・。

 

それだけ、厳格でクリーンな鑑査だということですね。

 

 

一次鑑査が終われば、次は二次鑑査です。

 

 

ここでは、一次鑑査員とは別で、部門全体から新たに選ばれた方たち約20名で行われます。

 

一次鑑査で選ばれた入選作品(賞候補作品も含まれていると思う)を

 

他部門の鑑査員の方たちが鑑査するようです。

 

例えば、

 

「この作品をなぜ入選にしたのか?」という、疑問に対して、

 

陶芸部門から選出された二次鑑査員が説明して納得させるという鑑査らしいです。。

 

もちろん、各部門ごとにあるそうです。

 

陶芸の世界では、当たり前のことだったりすることが他の工芸から見たら、

 

理解できないことだってあります。

 

陶芸の世界では、斬新で新しい世界と評価がついても、他の工芸から見たら、

 

新しすぎて、もはや陶芸ではないと解釈されることもあります。

 

過去に、この二次鑑査で審議にかけられ、結果的に落選になった例もいくつもあります。

 

そんなやり取りが二次鑑査では行われると聞いています。

 

 

そして、最後に日本伝統工芸展の受賞審査が行われます。

 

おそらく、各部門のトップ2名(人間国宝)と学識者が中心となった総勢約20名ほどが

 

審査員として選ばれていると思います。

 

各部門で賞候補となった作品が部門関係なく一堂に並べられ、

 

こちらも、点数方式で何度も何度も繰り返し、最終的に、

 

優秀賞7点、奨励賞5点、新人賞3点がえらばれるわけです。

 

(厳密にいうと、新人賞は別枠として審査されています)

 

・・・

 

10年前、2011年の日本伝統工芸展において、私は奨励賞を受賞いたしました。

 

当時、関係者から聞いたことですが、陶芸部門の一次鑑査において私の作品は一番良かったそうです。

 

当然、陶芸部門における賞候補作品としてもトップだったのでしょう。

 

 

しかしながら、私の作品は、同じ陶芸家でも見たこともなかった全く新しい白磁だったのと、

 

今では認知された陶芸の技法ですが、当時はまだ賛否が激しかった

 

サンドブラスト技法のような質感だったのもあったせいか、受賞審査において、

 

他部門の理解を獲得し難く、優秀賞にあと一歩及ばすだったそうです。。

 

当然、賞候補に選ばれていた作品も受賞枠に入らないと普通の入選となります。。。

 

一番悔しいバターンですね。。

 

・・・

 

今年の日本工芸展もしばらくすると、厳密な鑑査がはじまります。

 

現時点では、鑑査員は公表されていません。

 

当然、忖度なんて皆無です。

 

各部門において、厳しい鑑査、審査が行われ、

 

最終的には、他部門からも審査されます。

 

陶芸部門で高い評価だを得られも、他の部門でも同じ評価とは限らない・・・

 

これってとても重要なことだと思っている。

 

もっと視野を広げて考えてみる・・・

 

日本伝統工芸展で好評だったからと言って、一般の皆様の評価も同じとは、これも限らないのだ。

 

そうなんです。

 

これはあくまで、日本工芸会が主催する展覧会のみの評価です。

 

それもわかっているのです。

 

なぜなら、一次鑑査、二次鑑査、最終審査と、

 

毎年、異なる素材を扱うプロたちの価値観が異なる難しい審査があるからこそ、

 

己の作品を客観視できるのです。

 

それを知り、経験しているからこそ、今後の制作への整理ができると思っています。

 

 

「どうせ、デキレースなんでしょ?」

 

「他人に評価されるようなイベントには興味ない」

 

 

そんなこと言わずに、

 

一度チャレンジしてみませんか?

 

入選、落選よりも得られることが大きいですよ??